アパート・マンション大規模修繕で起こりうるトラブル対処法Q&A|近隣・入居者編[税金・法律#3]

大規模修繕をめぐるトラブルと対応の仕方についてのQ&A形式解説、近隣・入居者編をお送りします。ぜひ参考にしてみてください。

住戸内に入る工事に入居者が協力してくれない

Q1.専用部分を上下に貫通している共用排水管の修繕工事のために、室内に立ち入りたいが、入居者が協力してくれません。どのように説得すればいいでしょうか。

A1.部屋を借りている入居者は、その建物の修繕工事に協力する法的義務があると伝えて説得しましょう。

民法では、建物設備の維持保全に関して、賃貸人(オーナー)、賃借人(入居者)それぞれに一定の義務を規定しています。まず、オーナーは「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務」を負っています。つまり、雨露をしのげる居住空間を用意し、快適に生活できる設備などの機能を保たなければなりません。雨漏りが発生したら修繕し、設備が故障したら速やかに補修しなければならないわけです。もし、入居者のクレームに応えずに修繕を怠った場合には、家賃減額をしなければなりません。

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一方で、入居者に対しても「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒めない」という民法の規定があります。例えば、雨漏りを防止する多めの防水工事、生活に欠かせない給排水設備の更新工事、大地震に備える耐震改修など、建物の維持保全に欠かせない大規模修繕工事に協力しなければなりません。もし、協力を拒絶する場合は、契約解除の事由にもなり得ます。

ただし「受忍限度」を超える協力を求めることはできません。この「受忍限度」という法律用語は抽象的でわかりにくいのですが、一般的には「社会通念上でがまんすべき範囲」という意味合いです。明確な線引きがあるわけではありませんが、大規模修繕工事は建物の維持管理に必須ですので、この工事に協力することは受忍限度の範囲内と考えられるでしょう。

もちろん無断で部屋に入ることは許されません。工事のために立ち入るとしても、事前に日程調整をして、時間や範囲を限定して作業協力を求めるという姿勢が大切です。

入居者のストレスからくるクレーム・トラブルを防止

Q2.「足場を通る作業員から部屋を覗かれた」など、修繕工事が始まってからクレームが増えて大変です。トラブルを減らすにはどうすればいいでしょうか。

A2.バルコニーや窓まわりの作業の日程や時間を告知して入居者の準備をうながし、作業員のマナーにも気を付けましょう。

足場の作業者が往来していると、騒音がうるさいとか、窓の外から見られているかという不安を感じるという声は少なくありません。実際に覗かれていなくても「プライバシーを侵害された」とクレームをつける入居者もいるでしょう。常時、窓とカーテンを閉め切っていないといけないため、日照や通風が妨げられます。

また、外壁補修や屋上防水の大規模修繕では、足場を組んで養生シートで建物を覆うために、入居者の生活に支障が出てきます。バルコニーに置かれた植栽や私物の撤去を求めたり、洗濯物や布団を干すのを控えてもらったりしなければなりません。資材搬入のために、エレベータが一時的に使えないケースもあるでしょう。どうしても入居者にストレスを与え、クレームにつながることは避けられません。

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こうしたクレームやトラブルを極力減らすには、入居者に対する事前の告知、工事中のこまめな情報提供が大切です。全員のメールボックスに、工事のスケジュール表を投函すると共に、エントランスの掲示板に、工事期間と工程、工事の進捗状況をリアルタイムで告知します。住戸ごとに関係する作業工程は個別に知らせましょう。

また、ちょっとした疑問や困りごとの声、クレームを拾える窓口を設け、トラブルを未然に防ぐ努力をすることが大切です。スマートフォンのアプリなどを活用して、情報共有システムを作るのもいいでしょう。

周辺住民からのクレームで工事に支障

Q3.大規模修繕工事を始めたら、近隣から「うるさい、臭い」とクレームがあり、工事が進められず困っています。どう対応すべきでしょうか?

A3.法的には「受忍限度の範囲か否か」が問題になりますが、話し合いによる解決の糸口を見出しましょう。

工事に伴う騒音、振動、臭気、ホコリなどによる被害を受けたという苦情が、近隣住民から寄せられることは珍しくありません。大規模修繕工事に慣れている施工会社であれば、近隣対策を想定した費用も見込んでいるものです。事前に挨拶廻りをしたり、工事の期間や内容を記載した概要を配ったり、良好なコミュニケーションを取るように努めるのが一般的でしょう。

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大規模マンションの修繕工事では、近隣住民向けの説明会を開いて、スケジュールや工事内容の詳細はもちろん、騒音や臭気が発生するなど都合の悪い情報も隠さずに時間を割いてていねいに伝えます。

資材搬入や作業員の工事車両の無断駐車で歩行者や車の通行を妨げ、トラブルになることも少なくありません。短時間でも近隣道路への無断駐車は厳禁。コインパーキングや月極駐車場の短期契約などで、駐車スペースを確保しておきましょう。

法的な受忍限度論で言えば、騒音や振動の大きさ、響き方、時間帯、環境、被害の程度などを総合的に考慮して判断されます。紛争を避けるには、在宅確率の高い曜日や夜間など、工事日時の制限をしたりして、歩み寄りの姿勢をもって対応することが大切です。

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受忍限度を超える騒音や振動があったり、塗料が飛散して洗濯物や自動車に附着して汚れたり、実害が出ることもあります。工具や塗料の缶などが落下して、通行人や近隣住民にケガをさせてしまう可能性もあるでしょう。その場合は、金銭による補償が発生します。こうした場合に備えて、施工会社では、請負工事賠償責任保険に加入しているケースが多いようです。

なお、修繕工事の対象となる建物や資材に関わる損害に対応する場合は「建設工事損害保険」があります。地震を除く自然災害、盗難や放火といった外部的アクシデント、工事に伴うアクシデントや工事ミスなど、幅広くカバーする保険です。施工会社が、こうした保険に加入していれば手厚い対応が期待できるでしょう。事前に確認しておくことをお勧めします。

店舗営業に支障で賃料減額請求

Q4.大規模修繕工事のために、建物周りに足場を組んで養生シートで囲ったところ、1階店舗のテナントから賃料減額請求を受けました。値下げしなければいけませんか?

A4.一般的には、賃料減額に応じる必要はありません。ただしテナントに寄り添った対応が肝心。

賃貸スペースの一部、または全部が使用不能となった場合は、その割合に応じて賃料が当然に減額されます。例えば、足場や養生シートのために店舗の出入り口が完全にふさがって入店できないようなケースでは、休業日数に応じて賃料減額に応じなければなりません。

しかし、大規模修繕工事で、1階店舗の営業ができないような足場計画を立てることはあまり考えられません。最低限、出入口は利用できる状態を確保し、室内の営業に支障がないように配慮するのが一般的です。エントランス以外のウインドウが養生シートで覆われていると、営業していないと思われる危険性もありますから、通常は「営業中」などの告知看板を目立つところに掲示する工夫もするでしょう。したがって、賃料減額に応じる状態になる可能性は低いと考えられます。

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もっとも、テナントが壁面に店舗看板を取り付けている場合は、外壁の補修時に撤去してもらわなければならない場合も少なくありません。外壁は共用部分となるため、看板を取り付けた店舗側の負担で脱着するのが原則です。そのため脱着費用や代替え看板の扱いをめぐってトラブルに発展してしまうケースもあります。トラブルを避ける上でも、看板を取り外さずに済む仮設足場の組み方や工事方法を取るように、施工会社に依頼するほうが賢明でしょう。

また、工事で生じた騒音や振動が受忍限度を超える場合は、損害賠償責任を負わなければならない場合もあります。その判断は入居者トラブルのQ&Aで解説した通りです。

いずれにしても、テナントからのクレームや賠償請求があった場合でも、法律を盾に突っぱねるのではなく、工事に伴う来店客の減少に不安を持つテナントに対して、きちんと説明して、なるべく営業へ影響を与えないように配慮した修繕計画を立て、事前に納得してもらえるように話し合うことが大切です。

文/木村 元紀

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